自分がアファンタジアかどうか知りたい

 アファンタジア研究が進展しつつあることと矛盾しますが,実はアファンタジアの確定的な定義はなされていません。イメージが浮かびにくいという「体験(主観)」あるいは質問紙による基準が,今のところのアファンタジアの定義になります。今後,心理学的にアファンタジアの定義をきちんと決めるためには,アンケートを用いたサブタイプの検討,それらの割合に関する調査,面談等による当事者の体験(主観)の理解に加えて,客観的指標(心理学の行動指標や生理学の生理指標など)をもとにした知見の蓄積が必要となります。しかし,アファンタジアと一言でいっても多様な状態があります。アファンタジアと定義するための基準も重要ですが,それと同時にアファンタジアに限らず一人ひとりのイメージは多様であるということも忘れてはなりません。
 私たちの研究チームでは,大規模調査によりアファンタジアのサブタイプの存在を解明しつつあります。視覚イメージや聴覚イメージといった感覚モダリティの観点から研究を展開しており,イメージの多様性の存在を明らかにするために一層研究を進めていきます。

アファンタジアは障害ですか?

 「障害」と捉えるかどうかについては,いくつかの考え方があり,慎重に検討する必要があります。まず,アファンタジアはDSM(アメリカ精神医学会の診断基準)などの精神疾患の診断基準には載っていません。ですから,「障害」というより「特質」や「心的状態」と捉えたほうがよいでしょう。一方で,アファンタジアでお困りの方々もたくさんいらっしゃいます。その方々からすればすぐにでも支援が必要な場合もありますから,「特質というより障害と捉えてほしい」,その結果として「周囲の理解や支援が欲しい」というご意見があるのも当然のことです。これは,私たちの調査でもお聞きする意見です。
 障害と捉えるかどうかは,当事者の困り感(不適応の程度)に依存する点が大きいと言えます。ここで,障害に関する分野では「障害モデル」という考え方がありますので簡単ですが紹介いたします。障害モデルの考え方では,不適応状態を個人の要因として捉える医学モデル,環境の要因として捉える社会モデル,個人要因と環境要因の相互作用とする統合モデルがあります。アファンタジアについても,まさにこのモデルに基づいて考えることができます。つまり,アファンタジアという個人要因に加えて,環境要因(たとえば,職場の業務内容,同僚の理解など)でも調整が必要な場合は不適応が生じやすいと推測できます。一方で,アファンタジアという個人要因があろうとも,環境に不都合がなければ不適応の程度は低いかもしれません。実際に私たちの調査のなかでも,当事者のお仕事内容や周囲の理解度(あるいは理解しようとする態度)が当事者の不適応状態を左右する大きな要因となり得ることがわかっています。だからこそ,私たちは研究を通して,社会におけるアファンタジアの理解を促進させなければならないと思っています。
 心理学および近接領域を専門とする私たちの立場からは,アファンタジアは心的な特質あるいは状態と捉えています。今後,医学を専門とする研究者との議論も含めて検討していく重要な点かもしれません。

アファンタジアを治したい

 アファンタジアを改善しようと,たとえば瞑想法などいくつかの方法を試されているエピソードをお聞きします。研究の立場からしますと,まずはイメージが浮かばないメカニズムの解明が必要です。
 また上記の回答とも関連しますが,アファンタジアが特質と言えるならアファンタジアそのものを変えるという発想ももちろん重要かもしれませんが,周囲の理解不足や心無い言葉・指示など,当事者を取り巻く環境に対するアプローチも重要です。あるいは,イメージを補う代替手段の開発も有用かもしれません。そのために,私たちとしても社会におけるアファンタジア理解を促進すべく,今後も研究を展開し,知見を発信していく所存でございます。